会社を退職すると、会社員のときには会社がやってくれていた手続きを、自分でしなければならなくなります。
健康保険、年金、失業手当、住民税……。
一つひとつはそれほど難しくありませんが、面倒なのは、それぞれ期限や手続き先が違うことです。
私自身もそうですが、退職を考える年代になると、
「まず何からやればいいんだろう」
というところが一番気になります。
この記事では、退職したあとに必要になる主な手続きを、できるだけ実際の順番に沿って整理します。
とくに50代後半から60代で退職する場合は、60歳や65歳を境に制度が変わるものがあります。その点もあわせて見ていきましょう。
※この記事は2026年9月時点の制度をもとにしています。
退職後の手続きは「いつまでにするか」で考えるとわかりやすい
まず、大まかな流れを見ておきます。
| タイミング | 主な手続き |
|---|---|
| 退職前~退職時 | 会社から必要書類を受け取る |
| 退職後14日以内 | 国民健康保険・国民年金の手続き(該当する人) |
| 退職後20日以内 | 健康保険の任意継続を希望する場合 |
| 離職票が届いたら | ハローワークで失業手当の手続き |
| 退職後6か月以内 | 企業型確定拠出年金の移換(該当する人) |
| 年末~翌年 | 所得税・住民税・確定申告を確認 |
| 独立する場合 | 開業届や青色申告などを確認 |
国民健康保険の加入は、原則として資格を取得した日から14日以内。協会けんぽの任意継続は、資格喪失日から20日以内に申し込む必要があります。
全部を退職した翌日に終わらせる必要はありません。
ただし、期限の短いものから順番に確認しておくと安心です。
退職するときに会社から受け取る書類を確認しておく
会社を辞めてから「あの書類がない」と気づくと、手続きが止まってしまうことがあります。
退職時には、少なくとも次のような書類を確認しておきましょう。
離職票
失業手当の手続きをするときに使います。
退職後すぐ別の会社へ転職する場合などは必要ないケースもありますが、次の仕事が決まっていないなら受け取っておいたほうが安心です。
雇用保険被保険者証
再就職先で雇用保険へ加入するときなどに必要になります。
会社が保管している場合は、退職時に返却されます。
給与所得の源泉徴収票
その年に再就職した場合の年末調整や、自分で確定申告をするときに使います。
年の途中で退職した人に対する給与所得の源泉徴収票は、原則として退職後1か月以内に交付されることになっています。
退職金を受け取った場合は、「退職所得の源泉徴収票」も確認しておきましょう。こちらも原則、退職後1か月以内に交付されます。
健康保険の資格喪失を確認できる書類
国民健康保険へ切り替えるときなどに、これまでの健康保険を喪失したことが確認できる書類を求められることがあります。
必要書類は自治体によって違うため、退職前後に住んでいる市区町村のホームページを確認しておくとスムーズです。
企業年金・確定拠出年金関係の書類
会社で企業型確定拠出年金に加入していた人は、退職後もそのまま放置しないようにします。
これについては後ほど詳しく触れます。
退職後の健康保険は3つの選択肢から考える
会社を退職すると、在職中に加入していた健康保険の資格を失います。
その後の健康保険は、大きく分けると次の3つです。
- 国民健康保険に加入する
- 今までの健康保険を任意継続する
- 家族の健康保険の扶養に入る
協会けんぽも、退職後の健康保険についてこの3つの選択肢を案内しています。
国民健康保険に加入する
すぐ再就職せず、家族の扶養にも入らない場合は、国民健康保険に加入するケースが多いでしょう。
手続きは住んでいる市区町村で行い、原則として加入資格が生じてから14日以内です。
保険料は前年の所得や自治体などによって変わるため、「会社員のときと同じくらいだろう」と考えないほうがいいでしょう。
退職前に自治体の窓口やホームページで、おおよその金額を確認しておくと安心です。
今までの健康保険を任意継続する
一定の条件を満たせば、退職前に入っていた健康保険を任意継続できます。
協会けんぽの場合は、
- 資格喪失日の前日までに継続して2か月以上加入している
- 資格喪失日から20日以内に申し込む
ことが主な条件です。
会社員のときは会社と本人で保険料を負担していますが、退職後の任意継続では本人負担が変わります。
そのため、「今までと同じ健康保険だから得」とは限りません。
国民健康保険の保険料と比較してから決めたほうがいいでしょう。
家族の健康保険の扶養に入る
配偶者などが会社の健康保険に加入している場合、収入などの条件を満たせば、その扶養に入れる場合があります。
扶養の条件は加入している健康保険によって確認が必要です。
まずは家族の勤務先や健康保険組合に相談してみましょう。
2026年は従来の健康保険証は使わない
ここは以前の記事から大きく変わったところです。
従来の健康保険証は2025年12月1日で有効期限が終了しました。
2026年現在、医療機関や薬局では、基本的に「マイナ保険証」または「資格確認書」を使います。
古い記事でよく見かける「退職したら健康保険証を新しく発行してもらう」という感覚とは、少し仕組みが変わっています。
60歳未満なら国民年金の切り替えも確認する
健康保険と並んで忘れやすいのが年金です。
会社員は厚生年金に加入していますが、退職してしばらく次の会社に入らない場合、自分で国民年金の手続きが必要になることがあります。
20歳以上60歳未満なら国民年金第1号へ
日本国内に住む20歳以上60歳未満の人が会社を退職し、厚生年金に加入しない状態になる場合は、原則として国民年金第1号被保険者への切り替えが必要です。
手続きは、原則として退職日の翌日から14日以内です。
配偶者の扶養に入る場合は扱いが違う
会社員の配偶者の扶養に入り、条件を満たして国民年金第3号被保険者になる場合は、配偶者の勤務先を通じて手続きをします。
健康保険の扶養と年金の手続きは関係していますので、一緒に確認するとわかりやすいでしょう。
60歳を過ぎている場合は少し違う
このサイトを読んでいる方には、ここが大切かもしれません。
国民年金の強制加入は原則として20歳から60歳までです。
そのため、60歳以上で会社を辞めた人が、全員「国民年金へ切り替えなければならない」というわけではありません。
一方で、60歳までの納付月数が480月に達していない人などは、条件を満たせば60歳以上65歳未満でも国民年金へ任意加入できます。
「自分はあと何か月納めればいいのか」は、人によってかなり違います。
ねんきんネットや年金事務所で、一度確認してみてもいいと思います。
仕事を探すなら、離職票が届いたらハローワークへ
退職後に再就職を考えている人は、雇用保険の基本手当、いわゆる失業手当も確認します。
受給できるかどうかは、雇用保険の加入期間や離職理由、働く意思や能力があるかなどによって決まります。
自己都合退職でも失業手当は受け取れる
「自己都合で辞めたら失業手当は出ない」と思われることがありますが、そうではありません。
条件を満たしていれば、自己都合退職でも基本手当を受給できます。
2025年4月1日以降の自己都合退職では、7日間の待期期間に加えて、給付制限は原則1か月となっています。
ただし、過去5年間に正当な理由のない自己都合退職で2回以上受給資格決定を受けている場合などは、3か月になるケースがあります。
また、一定の教育訓練やリスキリングを受けた場合には、給付制限が解除される制度も始まっています。
このあたりは別の記事、
「自己都合退職でも失業手当はもらえる?いつから・条件・65歳前後の注意点【2026年版】」
で詳しくまとめています。

65歳以上で退職した場合は制度が変わる
65歳以上で離職した場合は、原則として一般の基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」の対象となります。
50代・60代の退職を考えるときは、65歳の前か後かによって雇用保険の扱いが変わることを覚えておきたいところです。
退職後も住民税の支払いは続く
会社を辞めると給与がなくなるため、「税金もしばらくなくなるのでは」と思ってしまいそうですが、住民税はそう単純ではありません。
住民税は前年の所得をもとに計算されるため、退職後にも支払いが残ることがあります。
退職した時期によって支払い方が変わる
会社員の住民税は、通常は給与から天引きされています。
途中で退職すると、天引きできなくなった残額を自分で納付する「普通徴収」に切り替わる場合があります。
東京都の案内では、6月から12月に退職した場合は残額が普通徴収になるのが基本で、希望すれば退職時に一括徴収することもできます。
一方、翌年1月1日から4月30日までの退職では、一定の場合、残額が原則として一括徴収されます。
自治体による案内を確認するとともに、退職前に会社の給与担当へ「残っている住民税はどうなるのか」を聞いておくと安心です。
年の途中で辞めたら所得税が戻ってくることもある
年の途中で退職し、その年のうちに再就職しなかった場合は、会社で年末調整を受けられません。
給与から天引きされていた所得税は概算なので、結果的に払い過ぎになっている場合があります。
その場合、翌年に確定申告をすると還付を受けられる可能性があります。
一方、その年のうちに再就職した場合は、原則として新しい勤務先で前の勤務先の給与も含めて年末調整を行います。
そのためにも、退職した会社から受け取った源泉徴収票はなくさないように保管しておきましょう。
企業型確定拠出年金に入っていた人は放置しない
50代で退職する人にとって、個人的にはここもかなり重要だと思います。
会社で企業型確定拠出年金に入っていた人は、退職によって加入資格を失います。
その後、iDeCoや転職先の企業型確定拠出年金などへ資産を移す手続きが必要になる場合があります。
企業型確定拠出年金の資格を失ってから6か月以内に移換などの手続きをしなかった場合、資産が国民年金基金連合会へ自動移換されることがあります。
自動移換されると、
- 資産が運用されない
- 管理手数料がかかる
- 自動移換中の期間が通算加入者等期間に算入されない
といったデメリットがあります。
「退職金は確認したけれど、企業型DCはそのままだった」ということがないようにしたいところです。
退職後に独立・フリーランスになる場合
会社を辞めて、そのまま再就職するのではなく、
「今度は自分で仕事をしてみよう」
と考える人もいると思います。
私も、人生後半では再就職だけが選択肢ではないと思っています。
ただし、独立する場合には、会社員とは違った手続きも出てきます。
2026年から開業届の提出期限が変わった
ここは以前の情報から変わっています。
以前は「個人事業を始めたら開業届は1か月以内」と覚えていた人も多いと思います。
しかし、2026年1月1日以後に開業した場合は、個人事業の開業届は原則として事業を開始した年分の所得税の確定申告期限までに提出する扱いになっています。
古いWeb記事を見ると「開業から1か月以内」という説明がまだ残っているので注意が必要です。
青色申告をしたい場合は別の期限がある
ここで注意したいのが、「開業届の期限が延びたから、税金関係の手続きは全部ゆっくりでいい」というわけではないことです。
青色申告を利用したい場合、「青色申告承認申請書」は原則としてその年の3月15日まで。
その年の1月16日以後に新規開業した場合は、開業日から2か月以内です。
独立を考えているなら、開業届だけでなく、青色申告についても早めに確認しておいたほうがいいでしょう。
失業手当を考えている人は事業開始のタイミングにも注意
「失業手当をもらいながら、少しずつ独立の準備をしよう」と考える人もいるでしょう。
ただ、雇用保険では「失業」の状態かどうかが重要になります。
開業や事業準備を始める時期によって扱いが変わる可能性があるため、自分だけで判断せず、事業を始める前にハローワークへ相談することをおすすめします。
60歳・65歳前後で退職する人は、年齢の境目を意識しておく
20代や30代の転職とは違い、50代後半から60代の退職では、「何歳で退職するか」が制度に影響します。
たとえば、
- 国民年金の強制加入は原則60歳まで
- 60歳以上65歳未満では国民年金へ任意加入できる場合がある
- 65歳以上で離職すると雇用保険の給付制度が変わる
- 60代前半では失業給付と老齢厚生年金などの調整が関係する場合がある
といった違いがあります。
数か月の違いでも制度上の扱いが変わることがあります。
「定年になったら考えればいい」ではなく、できれば退職する少し前から、自分の年齢と年金・雇用保険の関係を確認しておきたいところです。
退職後の手続きは、一つずつ終わらせればいい
ここまで並べると、
「会社を辞めるだけなのに、こんなに手続きがあるのか」
と思うかもしれません。
でも、全部を同じ日に済ませる必要はありません。
まず、
健康保険と年金。
次に、
離職票が届いたらハローワーク。
そして、
税金や企業型確定拠出年金。
独立するなら、その後に開業関係の手続きを確認する。
このくらいに分けて考えれば、意外と整理できます。
退職というと、「今までの仕事が終わる日」というイメージがあります。
でも50代、60代なら、そこで人生が終わるわけではありません。
再就職するのか。
少し休むのか。
今までの経験を生かして独立するのか。
新しいことを学ぶのか。
手続きを一つずつ片づけながら、これからの働き方を考える時間にしてもいいのではないでしょうか。
退職は、一つの終わりであると同時に、次を選び直せるタイミングでもあります。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。健康保険、年金、雇用保険、税金などの制度や必要書類は、年齢、加入状況、自治体、退職理由などによって異なる場合があります。実際の手続きについては、ハローワーク、市区町村、日本年金機構、加入している健康保険、税務署などで最新情報をご確認ください。
